JR総連発第12号
2005年 5月16日

西日本旅客鉄道株式会社
  代表取締役社長 垣内 剛 殿

全日本鉄道労働組合総連合会
執行委員長 小田 裕司

公 開 質 問 状

 去る5月13日に行われた衆議院国土交通委員会の議論を最大の関心を持って聞かせていただきました。JR史上空前の大事故を起こした企業の最高責任者が、事故から何をつかみ、今後の鉄道事業をどのように運営しようとしているかは、鉄道労働者を数多く組織し、鉄道事業の健全な発展をめざす私たちにとってきわめて重要な問題だと認識しているからです。
 委員会における社長と専務の発言を聞き、私たちが大きな失望を味わったことを率直に申し上げなければなりません。お話からは当事者としての責任感も、事故を起こしたことへの真摯な反省も感じられませんでした。しかしお話の中で「批判や意見に謙虚に耳を傾けたい」との表明が繰り返しありましたので、委員会での発言をめぐって下記の通り質問させていただきます。
 ご多忙中とは存じますが、JR西日本の再生を左右する重要かつ緊急の問題であることに鑑み、5月23日までにご回答をお寄せいただくようお願い申し上げます。

1.  垣内社長は「事故原因の解明をかつては鉄道事業者がやっていたが、航空・鉄道事故調査委員会(事故調)ができてからは事故調がやるようになり、警察の捜査も行われているので、それに協力する」と言われました。独立した鉄道事業者である以上は外部の協力を得つつも自ら原因解明に努めるのが本来のあり方とは思いますが、その資格も能力もないと判断して解明をすべて外部に委ねるというのも一つの経営判断ではあると思います。しかし、そうであれば司法や事故調などの下した結論にすべて従い、求められた対応策をすべて誠実に実施することが求められると思います。
 2002年11月の救急隊員死傷事故について、大阪地裁は判決で「ややもすると列車ダイヤの早期正常化に関心を傾け過ぎて運用されていたJR西日本の指令業務体制」との指摘を行っております。ところが、JR西日本がその後も回復運転によるダイヤ順守を指導してきたことは明らかです。なぜその際、司法による指摘を受け入れなかったのか、理由と経緯を具体的に明らかにしてください。

2.  垣内社長は信楽高原鉄道事故では信号扱いの誤りが問題だったので実設訓練センターを設けて訓練に努め、成果をあげてきたと言われました。ところが大阪高等裁判所がJR西日本の過失として主に指摘したのは「JR西日本社員の報告義務違反」「運用課長の報告体制確立義務違反」「安全対策室長の報告体制確立義務違反」「鉄道本部長の報告体制確立義務違反」でした。JR西日本は、この点で司法の判断とは異なる認識を持っているということなのでしょうか。

3.  垣内社長は企業風土の改革を繰り返し強調されました。

(1) JR西日本の企業風土のどこが問題であり、それをどのような方法によって改めるかを具体的に明らかにしてください。
(2) 垣内社長は「最も痛みを感じているのは自分なので、それを社員に伝えたい」と発言しておられますが、何を根拠に社長が現場社員よりも強く痛みを感じていると考えるのでしょうか。
(3) 垣内社長は「きっちり仕事をさせることに努力し、それなりの成果をあげたが、決められたことさえすればいいという風潮が出てきた」と発言されました。「きっちり仕事をさせる」ことに「それなりに成果をあげた」とは、具体的にはどのようなことでしょうか。それは懲罰をも用いて上意下達の企業風土をつくったこととは違うのでしょうか。

4.  徳岡専務は「日勤教育」をめぐって「一部に疑義があったので、一定の基準を設けることも検討する」と発言されました。

(1) 一部というのは何件で、それは全「日勤教育」のうちどれだけの割合を占めていますか。
(2) そのどこに、誰がどのような疑義を持ったのですか。
(3) この疑義に対してJR西日本としてはどのような評価をされますか。
(4) 統一した基準によって、何をどう変えようと考えているのですか。
(5) 梅田鉄道局長は昨年9月に「日勤教育」で行われている「草むしり」についてJR西日本に是正を指導したと発言されましたが、その際どのような対応を行いましたか。
(6) 現時点から見て「草むしり」などによる懲罰があったと考えますか。
(7) 2000年に大阪地方裁判所が「日勤教育」をめぐって「違法であり不当である」との判断を示した際、「裁判のときに教育が必要であるということを合理的に説明できること(こうした運転士に運転をまかせたら危ないと判断できるような内容)」「1ヶ月以上はやばいから止めとく→短絡的になったらダメ(相手の目的)」「しかし、従来どおりでもダメ」と記載された文書を「取り扱い注意」で現場管理者に配布されましたか。もし配布されていれば、その内容を現時点でどうお考えですか。
(8) 昨年6月に兵庫県弁護士会と同会人権擁護委員会が不当な日勤教育を繰り返さないよう勧告しましたが、これに対し「当社としては認識が違う。日勤教育は必要だから行っており、謝罪の考えはない」「草刈は現場長が必要と判断したもの」との見解を組合に示したと聞いています。この見解は現在も変わりませんか。
(9) 「日勤教育」を受けていた服部匡起さんが自殺をしました。他にも類似のケースが多くあると聞いていますが、把握しているすべての事例を明らかにしてください。またそのことに対する現時点での考えを明らかにしてください。

5.  垣内社長は「過密ダイヤが問題ではないが、遅延が出ているのは問題なので、今後よく調べてダイヤをつくっていく」と発言されました。しかしこれまで、ダイヤ改正のたびに、労働組合が遅延を指摘し、ダイヤの見直しを要求しています。ところがJR西日本はそのほとんどに対して「必要な時分は確保している」と回答してきました。そのことを現在どうお考えですか。

6.  垣内社長は「一から出直さなければならない」と繰り返し発言されました。字義通りには、これまでやってきたすべてのことを見直すことと受け取れますが、他方では「能力向上を目指して実践的な教育を実施している」「安全投資はJR他社と大差ない」「信楽高原鉄道事故への対処は実施した」とJR西日本の過去を肯定する発言もあります。「一から出直す」とは具体的にはどのようなことか、明らかにしてください。

7.  垣内社長は安全諮問委員会の設置を検討すると発言されました。2003年度の株主総会で「JR西日本の経営民主化を求める株主会」が抜本的な企業改革のため安全監視委員会の設置を求める提案を行った際、JR西日本取締役会は鉄道運転事故は減少傾向にあり、その必要はないと反対しました。このことを現時点でどうお考えですか。

8.  垣内社長はJR西日本発足以来の経営理念を見直すと発言されました。そのためには、これまでのJR西日本の歴史を反省することが必須であると考えます。1990年にJR東日本労使が共催した国際鉄道安全会議にJR西日本は招待を受けたにもかかわらず参加しませんでした。その際、誰がどのような判断を下したのか、理由と経緯を明らかにしてください。

以 上

 

回答について

 回答期限を過ぎても回答がないため、5月24日、電話でJR西日本会社に回答を求めました。
 対応した総務部は、「個別の問題については回答できない」と口頭で伝えてきました。
 一度ならず大きな事故を起こしてしまった以上、これまでの会社の姿勢に何らかの問題があったことは明らかです。
 もはや、一般的・抽象的な対策では、再発防止はできません。
 JR西日本会社の不誠実な対応に強く抗議するとともに、改めて、今回の質問状に回答をいただくことを求めます。

戻る