No.1

 

人権を無視した長期勾留

 昨年11月1日朝、突然訪れた警視庁公安部の刑事がドカドカと自宅に上がり込み、家中を捜索したあげく、家族の目の前でJR浦和電車区の京浜東北線運転士ら7名を逮捕しました。
 突然の逮捕から7カ月を超えた現在も7名は、東京拘置所につながれたままです。しかもごく限られた接見を除き、接見禁止状態におかれています。すでに、公判も4回におよんでいるにも関わらず裁判長は、私たちの再三にわたる保釈請求を「逃亡・証拠隠滅のおそれ」という理由で却下し続けています。
 特に、Uさんの三歳になる息子は、喘息で肺炎を患い入退院を繰り返しています。家族が大変な状況であり、一刻も早く駆けつけたいと第一回公判で意見陳述したにも関わらず、それもままならないのです。
 長期にわたる勾留によって、人権が無視され続けているだけではありません。今回の逮捕・捜査、裁判には見過ごすことができない大きな問題があります。

 

25日間以上の勾留は、たったの163人

 平成14年度『警察白書』の中で事件の被疑者の勾留期間をみると、25日以上の勾留者は、0.134%で99.8%は20日以内に釈放もしくは保釈となっています。しかも25日以上拘束をするのは、死刑又は無期の重刑を受けた者や常習者がほとんどです。

 

平成13年度 勾留期間(警察白書・平成14年度版)

被疑者数合計 121,503
5日以内 985  
10日以内 53,284  
15日以内 3,625  
20日以内 63,419  
25日以内 27  
25日を超える 163  

 

逮捕のデタラメ

 逮捕の容疑は「強要」で、組合脱退、退職を強要したというものです。職場集会の討論内容やトイレの会話までが容疑事実とされ罪に問われています。
 ことの発端は、一組合員が組合の決めた行動を繰り返し拒否したばかりか、競合する他労組のメンバーと行動を共にしたことにあります。その事実を確かめ説得するなかで、この組合員は再三にわたりウソを重ね仲間の信頼を裏切った末に組合を脱退し、自ら会社を退職したのです。
 この人物からの一方的な申立に基づき、テープを持ち込んで録音した職場集会の討論や勤務の合間の会話の断片を証拠として逮捕・起訴が行われました。

 

捜査の異常さ

 逮捕理由がデタラメであるばかりか捜索も異常そのものです。第一は、規模の大きさです。7名の逮捕、組合事務所をはじめ個人宅を含め64カ所の家宅捜索、1093点が押収されました。
 第二は、ほとんどの捜索箇所は、事件と全く関係ないところであり、押収物には「有事法制」関連のチラシや9条連の住所録も含んでいます。果ては、松崎明氏(JR総連特別顧問)が講演を終え車でホテルを出たところにテレビ局のカメラが待ちかまえている中で車を止め、30人もの警察官が包囲し、警察署に連行し2時間にわたって身体捜索と車内捜索を行いました。
 第三に、捜査を所轄の埼玉県警の担当ではなく、奇妙なことに警視庁公安二課が行っていることです。

 

「人質裁判」をやめろ

 7名の仲間は、警察・検察の取り調べに対して黙秘を貫きました。逮捕そのものが労働組合の破壊を目論む不当なものですから、取り調べに協力しないのは当然のことです。この黙秘権の行使に対して警察・検察は、「いつまでも黙秘していると出られない」と脅しをかけました。
 裁判の冒頭で裁判長は黙秘権があることを被告人に明らかにしています。黙秘権というのは、黙秘したことによって何ら法律上の不利益を受けない権利です。
 しかし、「黙秘権を行使したら保釈を認めない」として今もなお被告人の身柄を拘束する「人質裁判」が行われています。

 

私たちの保釈請求に対する検察側の意見書
(要約)

 被告人は本件犯行を否認している。
 JR東労組は捜査段階から非協力であるばかりでなく批判的である。
 これは、警察・検察のいうことに従わない限り保釈を認めないという姿勢を示すものであり、憲法で保障された黙秘権を否定するものです。
 本件は6カ月の長期にわたり、組合からの脱退及び退職強要した組織的悪質事案である。本件は革マル派が関与している疑いが濃厚である。  起訴状はもとより冒頭陳述にも一切触れられなかった「…革マル派の関与…」云々の記述がここに突然出してきました。公判の場では何ら具体的な根拠を示すことができないがゆえに、姑息にも保釈請求に対する意見の中で記述しているのです。
 このような記述は、裁判官に予断と偏見を植え付けるものです。このようなことを理由にして7カ月以上も長期にわたり身柄を拘束する方が「強要」ではないでしょうか。
 東労組組合員から被害者に不審な電話がかかってきた。 (意見書別紙)  意見書には、平成15年2月9日付「浦和電車区被害者に対する東労組の動向について」という公安二課名の文書が添付されています。そこに書かれていた内容は、被害者の携帯電話に最近(2月17日、18日)JR東労組時代の友人から電話があったというものです。17・18日の出来事をどうして9日付の文書に書けるのでしょうか。
 被告人らは起訴されており、職業上の身分は不安定な状況にある。組織を利用して所在をくらますおそれは十分ある。  これでは起訴された限り勾留され続けることになります。警察は、すでに1093点もの証拠や、関係者100人におよぶ事情聴取などを行いました。これ以上、どこに隠滅する証拠があるのですか。また、逮捕・起訴を不当だと訴えているものがコソコソ逃亡するはずがありません。

 

労働組合の団結権を守ろう

 仲間の信頼を裏切った組合員の過ちを指摘し議論することは、組合員として当然の姿勢です。
 憲法第28条では勤労者の団結権を明確に保障しています。さらに労働組合法は、団結を守る行為を「正当行為」とし法的保護を与えています。つまり、「自主的に労働組合を組織し団結する」という「目的を達成するためにした」行為は「罰しない」と法律で定められています。
 にもかかわらず、7名の仲間を長期勾留し、自由を奪った「人質裁判」を行っています。私たちは、人権と労働組合の団結権を守ります。職場集会の発言やトイレでの日常会話までも犯罪視され、逮捕・長期勾留の口実にされるならば、労働組合の活動は窒息させられるでしょう。すべての労働者に対する攻撃の矛先が、いま私たちに向けられています。JR総連は労働組合の基本的権利を守り抜くために全力で闘います。

         トップへ