自称「ジャーナリスト」たちの見識を問う!

 最近、発刊された幾つかの書物を拝読すると筆者の見識を疑うような記事が散乱しています。「ジャーナリスト」といわれる人たちもペンでメシを食っている以上、プライドをもって執筆されていると思いたいものです。しかし、残念ながらプライドよりももっと価値のあるものがほかにあるのかと疑念さえ感られます。

 例えば「財界展望」(7月号)という雑誌に載った記事を読むと、奇妙な間違いに気づきます。一見、労働組合全体を批判しているようですが、重点が置かれているのはJR総連傘下のJR西労です。その名称の説明には「セイ労」と読み仮名が振られています。JR西労のホームページを見ると「にしろう」と書かれていますし、事務所に電話をかければ「にしろうです」と答えるはずです。そうした基本的なチェックさえなされずに執筆されているようです。また何かの資料だけを頼りに書いたもなのか疑いたくもなります。
 実は「セイ労」と呼んでいるのは、知られている限りひとつだけです。それはJR総連から分裂したJR連合傘下のJR西労組なのです。

 もう一つの例をあげましょう。宗形明氏が以前執筆した「続・もう一つの「未完の『国鉄改革』」」という書物があります。この中に朝日新聞記事(2003年6月26日付)として引用されている部分があります。その記事の中で「JR総連の役員宅からも、革マル派の拠点である『解放社』(新宿区)が発行した書籍や、内ゲバ襲撃に触れた資料などを押収した」と記載されています。ちなみに「事件」が不起訴になり還付された物を確認すると上記のような押収物は存在しませんでした(つまり、朝日新聞の記事自体が結果的に捏造であり、おそらくリークを取材もせずに鵜呑みして記事が書かれたのでしょう)。
 ところが、当該の新聞を国会図書館や朝日新聞社のデータベースなどあらゆる版を参照しても、そういう記述はありませんでした。宗形氏にその旨の質問状を送ると「当該切抜き記事をきちんと保存しておかなかった」、「何故この食い違いが生じたかについては現時点では全く見当がつきません」とするだけで、謝罪も訂正もありませんでした。その後、見出しは違うものの静岡地方版の「当該記事」が送付されてきました。それを拝見すると見出しが違っており、日付も6月26日夕刊であることが判明しました。宗形氏は自信満々にJR総連の首を取ったつもりでしょうが、そもそも引用が間違っていたのです(宗形氏はそれすら認めていません)。
 そこで調べてみると、不思議なことが判明しました。国会図書館には各地方の最終版がすべて保存されているのですが、それよりさらに版の新しい「当該記事」が「(宅配とも違う)静岡のごく一部のみ」で作られていたのです(朝日新聞社の説明による)。宗形氏自身は朝日新聞を購読しておらず、誰かにもらって、それを引用したと主張しています。
 実は、不思議なことにJR連合も宗形氏と同様の引用を「民主化闘争情報」で行い、ホームページにも掲載していました。しかも、下に示したように、掲載している朝日新聞の紙面と、その引用文は異なっています。

 また宗形氏は最近新しい著作を出版されましたが、そこでは傍聴に来ていないJR総連の民事裁判の内容など、超人的な情報収集能力が示されています。一体、どこからそうした情報を手に入れているのでしょうか?JR連合の「民主化闘争情報」と宗形氏の引用が、間違いを含めてまったく同じであること、それまで特に記事もなかった週刊新潮や週刊文春、その他書籍が、福知山線脱線事故以降、申し合わせたように革マル疑惑を、同じような資料をもとにかき立てていることなどを考えると、意図的なJR総連・JR西労バッシングを行わせている者がいると考えるのはむしろ自然なことではないでしょうか。
 ちなみにJR連合の「民主化闘争情報」が共同通信社の配信記事に手を加えて掲載したことが明らかとなり、同社にJR連合会長自ら謝罪した経緯があるそうです。

 権威を捏造することで獲得しようとする、彼らの正義とはいったいなにか?そして、そうした情報を、何の検証もなく利用する自称「ジャーナリスト」たち。その陰で一体誰がほくそえんでいるのでしょうか。

宗形明「続 もう一つの「未完の『国鉄改革』」」、平成17年1月15日第一刷、高木書房

見出し「JR総連に革マル派資料 警視庁、関連施設で押収」

下段、傍線から始まる段落にも注目して下さい。

 

宗形氏が送付してきた「朝日新聞 2003年(平成15年)6月26日付 夕刊 <静岡地方版 18面>

確かに、氏のいう通り、「JR総連の役員宅からも、・・・」の記載があります。しかし、見出しは上に引用したものと異なり、これを正確に書き写したものではないようです。

 

同日の朝日新聞全国版

国会図書館で入手した静岡版も同様で、「JR総連の役員宅からも、・・・」のパラグラフはありませんでした。ただし、見出しは引用の通り。

すなわち、朝日新聞を購読していなくて、上掲の記事をもらっただけなら、本文のような引用の間違いは起こりえません。

JR連合が発行している「民主化闘争情報」216号。宗形氏と同じように、役員宅に言及があります。

私たちが調べた限り、朝日新聞朝刊でこのような記述のあるものは確認できませんでした。実際、JR連合が掲載している朝日新聞の紙面も、よく見ると役員宅については触れていません。すなわち、右側の新聞と左の「引用」は別物なのです。

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